【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
人通りの少ない裏通り。
そこに入った大河は私から手を離し、私に向き直った。
「お前なぁー…わざわざつっかかるなよなー」
『……』
「俺の立場も考えてよねー」
額に滲む汗を腕で拭って、手をパタパタと仰ぎ顔に風を送る大河。
壁に寄りかかるその風貌はダルそうにしか見えない。
「藤村さんの代わりに俺のマネージメントもしてんだからよー」
そう。
榎本さんは忙しくて来れない藤村さんに、自分が大河を管理するから、と言ったらしい。
本来事務所が違う私達が、そんな事しないはずなんだけれど、社長同士が仲良しかなんなのかゴーサインが出たらしい。
私としては、迷惑極まりない。
「はぁ。翔にはお前の事頼まれて、榎本に気ぃ遣うとか俺ストレス死するんだけどー」
大丈夫。
大河はストレス死なんてしない。
絶対に間違いない。
あんたは多分刺殺される。
女の子に。
「聞ーてるか〜?」
つらつらと考えていた私の頭をコツコツ叩いて確認してくる大河。
『………』
聞いては、いる。
いるんだけれども…
乱れた呼吸が整わなくて、返事ができない。
肩で息をして、膝に手を突く私を見てそれは察して欲しいと思う。