【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
ジジジ…
近くに蝉が止まったのか、鳴き声が聞こえる。
閉塞したこの部屋じゃ少しクリアじゃないけれど、それでも十分うるさかった。
『…壱成さん』
「なんだ?仁菜」
『…見すぎだから』
もう、本当に勘弁して欲しい。
凝視なんてもんじゃなくなっている。
「あぁ、悪かった」
「…いえ」
私の声にハッとした壱成さんは、腕を組み座椅子に深く腰掛けて、こちらを伺うがそこで漸く破顔した。
「翔君」
「はい」
その突飛な行動に特に驚いた様子も見せずに、翔は毅然とした態度で壱成さんに目を向けた。
ゆったりとした動作でお茶を啜った壱成さんは、薄く唇を開く。
「この前の事を責めるつもりはないよ」
「え…」
それはあの週刊誌の件の事。
それには私も翔も目を見開き壱成さんを見る。
だったら何故呼ばれたのか。
「仁菜がなかなか君に会わせてくれないからな」
『それは壱成さん、忙しそうだから…』
苦笑いを浮かべる壱成さんに言うけれど、それは壱成さんだけじゃなくて、私も翔もなんだけれど。