【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
どれくらい拘束されてたのかはわからないけど、自分の足で久しぶりに歩いた気になる。
カツカツと靴音が響き、杏里ちゃんの元まで歩いていく。
『…杏里ちゃん』
「…仁菜さん、翔君…」
康弘さんから私達に向き直った杏里ちゃんの瞳はゆらゆらと揺れ、困惑と後悔の色が滲む。
パシンッ
乾いた音が響く。
隣にいる翔が息を呑んだのがわかった。
ジンジンとするのは、私の手のひら。
それ以上に痛いのはきっと杏里ちゃんの心。
『…杏里ちゃんは1人じゃないから』
わかるでしょう。
1人だと悲観するのは簡単だけど、そうじゃない。
康弘さんは杏里ちゃんの間違いを正そうとしてる。
それに翔も、私も…
真っ直ぐ瞳を見据えれば、ゆっくりと震える声が聞こえた。
「…ごめん…なさい…叩いた事も髪も」
「俺も!杏里がこうなったのは…俺が杏里の言いなりだったから…」
「アタシ…仁菜さんが妬ましかった。何でも持っているのに…翔君までって…なんで全て持ってる仁菜さんなのって…」
私は全てなんて持ってなんかいない。
人は無い物ねだりだから…
杏里ちゃんには私がそう見えたのかも知れない…
杏里ちゃんの言葉に首を左右に振る。
もういいから、と。
「翔君も…杏里が執着してたのは、唯一自分を叱って、心配してくれた存在になの。翔君じゃなくてもきっと良かった…ごめんなさい」
「いや…俺もいろいろ悪かった」
ポンポン、杏里ちゃんの頭を撫でた翔に言葉を落とす。
それを見て、多分杏里ちゃんはもう大丈夫なんだと思いたい。
『…翔、行こう』
「は…?でも…」
『いいから。私、疲れたの。もぅ今日は寝たい』
そう言えば私の肩に手を回し歩き出した翔は、最後に杏里ちゃんに振り返り
「泉の演技は嫌いじゃねーから」
ポツリ言葉を落とした。
それに言葉が返ってくる事はなかったけれど、杏里ちゃんは康弘さんに肩を抱かれ静かに涙を流していた。