【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
「俺は翔と一緒にいる仁菜が好きなんですよ」
ほら、と榎本君が指す先には翔と幸せそうに笑う仁菜。
お腹を撫でながら翔に寄り添うようにする姿が、幸せの象徴だと言わんばかりだ。
「…だから、言わない」
リビングから出て行った榎本君の横顔は、後悔など一つもないと言った晴れ晴れとした顔だった。
「好きの形は人それぞれって事、か…」
ポツリ呟き私もリビングを後にした。
「ねー仁菜は男の子と女の子どっちが欲しい?」
『どっちでも。元気に産まれてきてくれたら、それだけでいいよ…ねぇ?翔』
「そうだな…」
あの日心に傷を負った少女は、いろんな人と関わり、支えられた。
そして人を愛する事を知り、巣立ってゆく。
あの日の傷が完全に消えることはないけれど、だからこそ彼女は人にも優しくできるのだろう。
2月にしてはよく晴れた午後。
春とはまだ呼べない季節、暖かい祝福に包まれた仁菜は幸せそうに笑っていて、今まででのどんな笑顔より一番輝いていた。
白い花束
END