【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
相模家と私
『…ねぇ、ガミさん』
「んー?」
『これ、何?』
私は相模事務所の、オフィス席に座るガミさんのデスクにそれを押し付けた。
散乱しきったデスクはいい加減片付ければいいのに、と思う今日この頃。
料理と平行して片付けもできないガミさんが、三十路にしで独身なのも納得のいく話なわけで。
「……あー…」
『……』
視線を空に彷徨わせたままのガミさんは、決して私の目を見ない。
「…フリ、なんだけど」
苦笑い気味にぽつりと呟いたガミさんに『だから?』と詰め寄った。
「あー…っと、ごめんね?
それフリですむように社長が配慮したみたいだけど…嫌、だったよ…ね?」
眉尻を下げ、見上げてそれ…
プリメーラと書かれた台本を手にした三十路女、千夏は私を困惑の視線で見つめてくる。
嫌だったかどうかなんて関係ない。
フリでもなんでも、なんでキスシーンなんかがあるわけ?
私聞いてないんだけど。
…しかも翔と、大河のダブルで
『………』
…我が儘、なのかもしれない。
芸能人で、それをやってお金をもらってるのに。
ファンの人たちからしたら、発狂物なのかもしれない。
私の役を演りたい人なんて他にもいっぱいいるのかもしれない。
……拾ってもらってマンションまで与えてもらった私が、その恩を忘れて社長に逆らうのは。
ガミさんにこんな顔させるのは、いけない事なのかもしれない。
だからぎゅっと掌を握りしめて
『………わかった。フリだけだから』
そう言うしかないんだよ。