【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
「俺はさ、仁菜に初め怒鳴ったりしたけど、今はちゃんとわかってるから」
『……え?』
触れるくらい近い距離にいる翔は、決して私には触れてこない。
私と翔には見えない境界線があって、それを守る翔は私を安心させようとしてるんだと思った。
「仁菜は、このドラマにちゃんと真剣に取り組んでんだろ?」
『……』
「…空き時間にセリフ覚えてんの知ってた」
確かに時間があれば台本読んだりはしてた…けど、翔が見てた?
「だからさ、俺とキスとか考えてないで“雫”になりきれ。俺は仁菜を女として見てねーから」
『…う、ん…』
「ちゃんとフリだし、1発で決める。俺を信じろ」
僅かな位置確認の時間。
翔は私にしか聞こえない声で、必死に私に語りかけてくれた。
こんな時でも真面目な翔は、私が思うよりも優しかったんだと知った。