【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
『…なんでそんな根も葉もない噂信じてんの?…なんで私が翔と付き合わなきゃいけないの?普通に無理だから!』
男と付き合うなんて私には考えられない。
無理だ。
たとえ誰でも。
だらだらと流れるカフェオレがベタベタして気持ちが悪い。
そんな不快感と一緒に吐き出した言葉はとても冷え切っていた。
手に伝って床に落ちていく雫を見ながらちひろの声を聞いた。
「…仁、菜…」
『…何?』
やけに切羽詰まった声を出すちひろを不審に思って、そこから視線を外して彼女を見やった。
私に向けられているであろう瞳は、こっちこそ向いてはいるものの、私と視線が交わることはない。
私より若干左上を見ているちひろの表情は、困惑しているようにも焦っているようにも見えた。
「う…う、しろ…」
『え?』
言われるままにちひろがスッと指差した方へと振り返る。
心臓が止まるかと思った。
困惑したし、焦りもした。
…なんで?
視線をぐるぐるしながら、そこにいる人物を直視する事は出来なかった。
「…悪かったな。俺もお前はナイから安心しとけ」
その言葉でやっと彼に視線を向けたけれど、彼はそう言って僅かに笑ってみせた。