【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
その表情は確かにちゃんと笑っているのに、瞳は笑ってはいなかった。
…作り笑い。
すぐにわかってしまった。
自分がよく使うその笑みに。
笑っていないと、気づいてしまった。
『…なんでいるの?』
混乱した頭で考えて、口をついた言葉はそんなものだった。
いや、でも本当なんでいるの…?
「仁菜…?翔君、ここの3年だよ…?」
未だに戸惑った声色のちひろは、おずおずと翔から私に視線を移し説明してくれた。
いや、確かに彼はここの制服を着ているけれど…
……初耳だ。
『…はぁ?』
「お前、先輩に向かってなんっつー口聞いてんだよ!」
ははっと乾いた声を出した翔は私の手を見て、わざわざ濡れタオルを持ってきてくれた。
ベタベタの手がサラサラになっていく様を見ていた私と、口調とは裏腹に優しい行動をする翔にちひろはただ呆気にとられていたけれど。
『…ここの生徒なんて聞いてない』
とりあえず思っていることを吐き出した。
「言ってねーし。つか久々来たしな」
そういう事は先に言っておいてほしい。
お陰でかなり吃驚した私だったけれど「あんま吃驚してねーな?」と笑った翔の瞳は今はちゃんと笑っていた。
…彼に私の吃驚は伝わらなかったらしい。