【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
その後も適当に頼んだ料理をわざわざ涼が運んできては、翔をちらりと見ていた。
翔はもう何も言わなかったけれど、その視線には心底うざそうだった。
そんな涼も運ぶ物がなくなったのか今はカウンターからこちらを伺うだけ。
翔はカウンターに背を向けて座っているから気付いていないけれど、私には隠す気もないのかモロバレ。
そんな涼に目で仕事しろと訴えるけれど、一向にその気配はない。
終いには店員に一喝されていた情けない涼をバカだな、と思いながら見ていた。
「仁菜ってカフェオレしか飲まないのかと思った」
『…そんなわけないじゃん』
フッと笑う翔にそう告げたけれど、あながち間違ってはいない。
普段私が飲むのは専らカフェオレだし、撮影の時も陽斗からもらうカフェオレ。
「仁菜がグレープフルーツとか変な感じ」
ククっと喉の奥で笑う翔は…珍しく上機嫌に思えた。
『…美味しいよ?』
普通のグレープフルーツジュースは飲まないけれど、ここのは別。
バナナのシロップに生搾り果汁を注いだソレはなんとも美味。
ほろ苦さが癖になる。
「…確かに美味いけどな」
サラリと掬われる髪。
…まただ。
なんで私は翔だと大丈夫なんだろう…?