【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
恋聴取
真っ暗な部屋に明かりを灯せば、そこは通い慣れた場所。
まだだれもいないそこは当たり前だけれど寒くて、思わず身を竦めた。
設置された暖房を点けて、革張りの白いソファーに膝を抱えて座り込む。
店を出て、やっぱり自宅に戻ろうかと考えた私の携帯に“逃げるなよ”たった一文の涼からのメール。
長年の賜物なのか…どうやら逃げるのが涼にはバレていたらしい。
そのメールを見てため息を吐いた私を、社長宅のマンション前まで送り届けてくれた翔は別れ際またなと一言。
それはあまりにももあっけない別れの言葉だったけれど、その表情は柔らかく不覚にも胸がぎゅうっとなった。
『…また、ね』
ドキドキした自分に戸惑いながらも告げた私に、緩やかな笑みを漏らした翔は
「相模さんによろしく」
そう言って、車を夜の町へと走らせた。
『…なんなんだろう』
この胸の高鳴りは。
ぽつりと呟いた言葉は夜の闇に溶けて消えた。