燐の行
暗い部屋に奥に灯る一つ蝋燭の炎、それに映る影。
影の主がゆらゆらと揺れる炎に手を伸ばす。
すると風も吹いていないのにその炎は一瞬の内に消え去った。

「…兄貴ッ!」

「…騒がしいぞ。お前も一応は女なのだから少しは大人しくしていろ」

炎が消えた蝋燭に再び手を近づけた直後、今度は青紫の毒々しい炎が灯り怪しく部屋中を照らし始めた。

「不知火が、神社を出たって…」

「あぁ、そのようだな。『あの方』は気高く気難しく、それでいて力は強大。是非とも我々の仲間に迎え入れなければならない」

ふふ、と怪しく笑うと指を鳴らす。
すると何処からか一人の少年が、群青色の着物を持って彼の目の前に現れ、着物をそっと手渡した。

「鷲尾(えんび)、お前も準備しろ」

「…え、あ…兄貴、オレもなのか?!…オレ…人間見たくない…」

「我が侭を言うな。俺もあんな汚き理想だらけの世界などに足を踏み入れたくはないんだ」

「…じゃあどうしてわざわざ行くんだそんなトコ!!オレ絶対に…絶対にあんな思い二度としたくないよ…」

彼女はそう呟き、床にその場にしゃがみ込む。
目の前にいる実の兄は気分が沈んでいる妹に声もかけずに手渡された群青色の着物を羽織り、襖に手をかけた。

「……赤(せき)。俺の邪魔をするヤツは片っ端から燃やし尽くせ」

「…………………御意。」

赤と呼ばれた少年はそう一言だけ了解の意思を彼に伝えると、あっという間に姿を消した。
襖を開けると無数の妖どもがところどころで「玄帯(くろおび)様!」と叫ぶ。
その声を耳にする度に頭が痛み、煩いと思える。

「煩い、静まれ…ッ!!」

静かに怒りを込めた言葉をぼそりと口にし、腕を自分を騒ぎ立てる妖どもに向けて振り払う。
軽く手を振り払った瞬間に生み出された弱い小さな風は、彼自身の妖の力により『かまいたち』と化し妖達を無数に傷つける。

「さぁ…もうすぐ、もうすぐで俺の理想が叶うんだ…」

周囲に漂う妖達の腐ったような血の匂い。
玄帯はその中を狂ったように声を上げて笑いながら立ち去って行った。
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