いつもと違う日
「おかえり」

振り返ってみると、
そこには管理人のおばさんが
こちらを向いて立っています。

「こんにちは」

私は
いつもの感覚を取り戻して、
軽い挨拶で言葉を返したのですが、
でも今日は何だか
いつもとは違いました。

いつもなら挨拶で
足を止めることもなく、
すれ違うように
おばさんと別れるところが、
今日のおばさんは
正面からこちらを向いたまま、
どうも何かを言いたそうにしているのです。

「今日は暑いねぇ」

「そうですねぇ」

特に深い意味もなさそうな
おばさんの一言に、
私は何となく口調を合わせて
応えてみました。

確かに、
今は光を遮ってくれている
このオシャレな
エントランスでさえも、
入り口の方から押し寄せてくる
凄まじい熱気で
蒸し風呂のような状態でした。

光を入れるための
大きなガラス窓を通して外を見れば、
真上から降り注ぐ真っ白な光で
景色もすっかり白く飛ばされています。

「ちょっと寛いでいかない?
何か冷たいものでも入れるから、
ね?」

おばさんは
管理人室の方を指差して
私を引き止めます。

「いえ、すぐ家ですし」

私は管理人室とは反対側にある
エレベーターの方を指差して
応えました。

焼き付けるような炎天下の中を
友人たちと歩いてきて、
煩わしくも皮膚に張り付いてくる制服から
一刻も早く逃れたかったのです。

私は少し早口で言い放った言葉の後に
軽い会釈をつけてから、
おばさんを残して逃げるように
エレベーターへと乗り込みました。


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