いつもと違う日
不安
狭くて四角い部屋に
溜まっていた重い空気が
渇いた喉をつまらせます。

息苦しい空間に抵抗を感じながらも、
何とか冷静を保って扉を閉めようと、
ボタンを数回押したのですが、
想いとは裏腹に反応の鈍いエレベーターは、
扉を全開にしたまま一向に動こうとは
してくれませんでした。

そしてやっと反応したかと思えば、
何か重いものでも引いているようなスピードで、
わざとらしくゆっくりと閉まり始めるのです。

おばさんが立っていた場所は
エレベーターの中からは
見えない位置にありましたが、
ガラスがはめ込まれている扉の横の方から、
今にも乗り込んでくるのではないかと
不安になりました。

自宅への階を押して
エレベーターが動き出します。
あんなにも閉まるのが遅かったエレベーターが、
今度は軽快な動きで
宙へと浮き上がっていくのが、
足元にも感じられました。

二階、三階と、
下の方へ落ちていく景色の奥に、
一瞬だけ映る階段を見ていると、
ますますおばさんの様子が気になってきます。

私の家に、
何かとんでもないことでも
起こったのでしょうか。

それとも家族の誰かが
事故にでも遭ったのでしょうか、
そんな不吉なことが
頭の中をよぎっていくのです。

両親は共働きで、
弟も今頃はまだ学校です。

家にはまだ
誰も帰っていないはずで、
もし家族に何かあれば
私の中学に連絡が
くるはずなのです。

そうなれば、
家そのものでしょうか。

火事にあったとか、
空き巣に入られたとか、
それならおばさんの様子が
おかしかったことにも
納得がいきます。

頭が変になりそうな空間の中で
そんなことを考えていると、
エレベーターは何の音もたてずに
速度を落としながら
ゆっくりと到着しました。

さっきので
私への嫌がらせを完了した扉は
思いのほか素早く開いて、
今度は閉ざされた熱気の代わりに
煩いセミの鳴き声が
両耳から頭の中心を貫きました。

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