制服の中
面接室は「説教部屋」と呼ばれる部屋だった。
素行の悪い生徒が呼びされたときに使う部屋。
学年主任直々のお説教を聞かされたり、反省文を書かされる。私も何度か入った。
入る時は、一緒に呼び出しを食らった友達との口裏あわせをしたり、緊張しながら入る部屋だった。

それとはまた別の緊張で、私は面接室へ入る。

中間の補習も2回残している所で、今回は白紙。
これはさすがにマズイとは思っていたけど、それ以上に、先生と2人になれるのが嬉しかった。

先生は私の顔を見るなり「またやったな」と苦笑した。
先生には、バレていたようだ。

廊下で先生とすれ違っただけでキャーキャー騒ぎ、授業中指されれば私も調子に乗り、どんな鈍感でも私の好意には気づく空気を徐々に作っていっていたのもあるから。

「だって先生の補習受けたいんだもん」

こんな事も、「先生から見たら私は子供」という立場に甘えていたからだろう。
何を言っても、大人の先生なら許してくれる。自分の立場を逆手にとって、先生を困らせた。


「あんまり赤点続くと、俺がやばいんだってば」

そう、困った顔をして言っていた。

自分の勝手な行動で、「教諭」の評価を下げていたなんて、全く予想もしなかった。教職のシステムなんて知らなかったし、自分にとってどれだけ不利になるかも考えなかった。

でも、ちゃんと受けたら、補習が受けられない。先生と2人になれない。
そして、先生は私の思惑を知っていて、こんな事を言ったのか。ワザとだと、分っていたのか。

先生は、私のノートに筆記体で英文を書いた。「訳してみなさい」。

私は、自分の和訳が間違っているのではないかと、何度も何度も読み返した。
いくら読んでも、何度読んでも、和訳が変わる事は無かった。

「これから起こること、話した内容を、誰にも話さないと約束できますか?」

私は「Agree」と書いた。返答としては間違っている。
目が合った先生に、敬礼したのを覚えている。
ははっ、と軽く笑った先生が、更に続けた。
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