君が落とした青空



「どうしたの?何か後ろ姿から暗い雰囲気だけど」

電車を降りるなり、相変わらず今回も佐喜子が声を掛けてきた。

「別に――なにもないよ」

何もない。
何もないから――…

「体調悪いの?」

振り向かずにそう返事をした私に、佐喜子が隣に並んで私の顔を見つめるのが視界の隅に見えた。

「何でもないよ」

自分で言っておいて大丈夫そうな顔をしてないことは分かっていたけれど、それ以外に口にする言葉を私は知らないもの。

「無理しないで、辛かったら帰りなよ?」

帰れるものなら帰りたい。
帰って寝ていれば終わる今日であればいいのに――

何事もなく、同じ明日が来ればいい。


「テストもあるしねー」

佐喜子の言葉に少し苛立ちを感じた。

テストなんてどうだっていいのに。そんなことよりももっともっと…

佐喜子の知らない未来があるんだよ。何も知らないで――


そんなの八つ当たりだけど。分かってるけど。何も知らず同じような日々を過ごす周りの人たちみんなが憎く思える。


私だけがこんなに辛いんだ。
知っているから辛いんだ。


何も知らなければ良かったのに…


そうじゃないのは分かっているのに、何も出来なかった昨日までの繰り返しが重い。

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