唐女伝説
「分からぬ。何度あの女に問い詰めても、頑として口をわらなんだ」
「御前にはもう騙されんぞ」
 小助は振り絞るような声を発すると、書状をびりびりと破り、散り捨てた。剣を固く握りしめ、
「覚悟!」
 と道鏡の肋がうきかけている腹を、思いっ切り串刺しにしたのである。
「ぐうう」
 道鏡は呻いた。血潮が小助の視野を深紅に染めた。道鏡は後頭部から倒れ込んだ。小助は柄を持ち替え、その喉目掛け剣を射し込んだ。渾身の力を込めて。
 道鏡がこときれた瞬間の、小助の記憶は無い。道鏡の死に顔は戸惑いの表情だった。小助は刀を引き抜くと、ゆっくりと外に出た。戸外には闇路が一本、暗黒の中に続いている。
 闇斫を断行した男の前に、天上世界が審判を下している様だ。
(さて、何処へ行こう)
 小助には遺恨も悔恨も達成感も無く、何の感慨も無い。目の前の道を進むのみだった。
小助のその後を知る者は、誰もいない。 

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