【完】“微熱”−ひと夏限定のセイシュン−
ライブが終わるまでずっとそこに突っ立っていたけれど、気が付いたらお客さんは疎らになっていた。
「ふーゆか。アヤ達と水族館に行ってたんじゃなかったの?」
「帰って来たの。ナツに、会いたかったから」
あまりにストレートな言い方だったのだろうか、ナツは照れ臭そうに頭を掻いた。
「そんな可愛いこと無表情で言うなよ。いつもは照れるくせに。……ね、今から二人で散歩でもする?」
その綻んだ頬を更に綻ばせてナツが言うと、私も同じような表情になる。
コクンと頷くと、ナツはキラリと歯を見せて、私に手を差し延べた。
そのゴツゴツの掌も、ナツの人柄そのものみたいに温かい。私の大好きなナツの手。