【完】“微熱”−ひと夏限定のセイシュン−
唇を噛み締める私を、下げていた頭を戻したナツが見る。


その目はやっぱり穏やかじゃない。いつもより威圧的で、知らない人みたいで、嫌だなって思ってしまう。


そんなナツのゴツゴツした手が、私の頭を撫でた。この手は、いつものナツの手で、温かい。


「このクラブハウスの"マスター"として、"お客様"には心から謝罪させていただきます。……だから、今度は"青柳夏紀"という一人の男として、あなたという一人の男に一言、言わせてもらうことにします」


ナツが謝ったおかげで機嫌が直りつつあった男性客はその言葉に眉間にシワを寄せる。


もちろん、野次馬目的で見ていた周りのお客さんも、私もナツに驚き固まり、そして次の言葉に注目した。
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