【完】“微熱”−ひと夏限定のセイシュン−
「よし、じゃあ最後に俺のパワーを注入しとこうかな」


ナツはそう言うと、小瓶にそっと、吸い寄せられるように口づけをした。


橙色の世界にナツがあまりにも似合い過ぎて、私は動くことを忘れて、呼吸さえも億劫だと思うほどに見とれる。


口づけをしたその小瓶のペンダントは、ナツの手によって私の首にかけられた。


「これで、星砂と俺が、いつでも冬花を守るよ」


「……キザだね、ナツは」


でも、こんなキザなことが板につくのはきっと、世界でナツ一人だと思う。


私はこの瞬間だけ時間が止まれと、ありえないことを願った。


海の中でも、ここでも、叶うことが無いのを分かっていながら、そう望み、願った。
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