【完】“微熱”−ひと夏限定のセイシュン−
夕日の橙色から、外は薄紫の世界へ移行していく。


「帰ろっか。俺達の、居場所へ」


「うん」


差し出されたゴツゴツの骨張った手を握ると、ナツはゆっくり歩き出す。


「あ、そうだ、忘れてた」


けれど、歩き出してすぐに、ナツは立ち止まった。


そして、振り向いたかと思うと、物凄いスピードでナツと私の唇がくっついた。


それは、急速に私の心臓をかき鳴らすスイッチ。


一日中海にいた私達。キスの味は、しょっぱくて、磯臭いのに、例えようがなく甘ったるい。


柔らかなキスと、唇を味わうようなキスが、不規則に、私を甘く溶かすみたい。


こんなキス、経験したことがない。


大人だから出来るの?他の女の人にもこうやってしてきたの?これからも、誰か他の人にするの?


聞けない。黒が渦巻く。でも、聞けないよ。
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