【僕らの撃退大作戦】
男の脳裏に去来した、囁き。
ポケットには、万能ナイフ──といえなくもない、手に馴染む大きさのカッターナイフ。
家を追われてあちこちさまよっている間に、何かにつけて便利かと思って出際に突っ込んでいたものだ。
ハサミよりも汎用性が高く、包丁よりも手軽で、果物ナイフよりも場所をとらないため、案外重宝していた。
これを相棒とし、銀行へ押し入れば……
──いや、しかし、そこまで身を落とすのか?
今の状態から抜け出したいのは山々だが、銀行を襲撃するのは……
迷う男の前を、大きな黒いカバンを持った男が通り過ぎる。
カバンを重そうにしながらATMコーナーへと入っていった男につられるかのように、彼はふらふらと足を踏み出した。