【僕らの撃退大作戦】
日常崩壊
タカヤの場合
彼らが互いを認識する数分前、営業係のタカヤは、顧客のところから戻って来たばっかりだった。
スーツなんぞを着込んでいるから、ワイシャツがぴたりと張り付く程にじっとりと汗ばむ、残暑厳しい10月某日。
盛夏には高かった陽も少しずつ短くなり、秋のかおりを運ぶ空は高さを感じさせていた。
こんな暑さの日は、スーツの上着を着なくても特に何も言われはしない。
だが、今日は大事な顧客を回る仕事があったため、自主的に着ていたのだ。
もっとも、その成果の方はと言えば……
──はぁ。このままじゃまた、ノルマ達成出来ないや。
彼は心を重たく沈ませながら、年季の入ったカブから降りる。
くたびれた革靴の底がきゅっと鳴った。