素直に優しく―360日の奇跡―
自動回転ドアの入口を抜けてすぐの店の内側に置いてあるベンチに座ってまだうるさい二人を横目で見る。
「うぜーお前!」
「負けたからってひがむなバーカ!」
どうやら口げんかはメグの勝ちらしい。
悔しそうにメグを睨みつけるシンを勝ち誇った表情で見ているメグにまた小さく笑った。
「ぜってぇ奢らねー!」
「ずるっ!」
「バーカ!
ヨリ、何飲む?」
またぎゃーぎゃー騒ぐメグを綺麗に無視したシンは私をみて笑ってくれた。
自分だけに向けられた笑顔なんて何年も見ていなくて、胸がキリキリ痛んでしまう。
「ヨリ?ヨーリー?」
「は?」
「いや、は?じゃなくて!何飲む?」
マヌケに返した私にまた笑いながら自動販売機に小銭を入れるシンに「コーラ」と小さく呟いた。
「あ、メグはウーロンで。」
「だから奢らねぇっつーの。」
「ひど!ケチー!バカー!ハゲ!」
「ハゲてねぇ!」
最初はただうるさいと思ったメグとシンの声も、これが普通なんだと思えば大して気にならなくなった。