素直に優しく―360日の奇跡―
03話*寂しい家
特に何か話すわけでもなくてお互いに無言のままで過ぎる時間も苦痛ではなかった。
シンはどうかわからないけど。
目の前にある時計売り場の時計を見ればもう夜の7時近かった。
「そろそろ帰るかー。」
「……だね。」
正直、帰りたくなかった。
今のこの時間の方が家にいる時間よりずっと気楽だから。
空になったコーラの缶を握ったらペコンと情けない音を立ててへこんでいる。
それをごみ箱に投げ入れて、カバンを持って立ち上がった。
「送るか?」
「近いから良い。」
「気をつけて帰れよー?」
シンも立ち上がったとこでゆっくり、少しでも時間を稼ぐためにゆっくり歩く。
長身で一般的にはイケメンで染めてない髪をワックスで固めるシンは見かけによらずに心配性らしい。
自動回転ドアをくぐり抜けて出た外で自転車の鍵を外す私にそう話し掛けて来る。
「すぐそこだから。」
「時間考えなさい。」
「シンって……過保護なんだ。」
私にしては珍しく思った事を率直に言葉にしていた。
言葉にした後にシンのこれから言う言葉にびくついてしまうのはたぶん昔の事があるから。