素直に優しく―360日の奇跡―



自転車のペダルを漕ぎながら慣れない鼻歌なんか歌ってみた。


新しい自分に出会えたような気分でいつもと同じ道をいつもとは違う気持ちでたどる。



入り組んだ住宅街。大通りから脇道に入って手前から数えて五本目を右。
そこから真っすぐ進めば私の家がある。


家の前に自転車を止めてポケットから鍵をだす。

いつものように明かりが付いていない家でも昨日とはまるで違う家みたいに見える。


玄関ドアの鍵を開けて中に入ると大きな影が出迎えてくれる。




「ただいま、チェリー。」




言葉は返してくれないけど、ちぎれるんじゃないかって位に尻尾を振って答えてくれた愛犬。

私が大嫌いな家にちゃんと帰るのはチェリーがいるから。

小学生の時からいるゴールデンレトリーバーのチェリーは私のたった一つの宝物。



尻尾を振るチェリーの頭を撫でてリビングに向かい手探りでスイッチを押す。


ガランと無駄に広いリビングの奥にあるストーブを付けてキッチンに向かい歩く。

後ろを付いて歩くチェリーの頭を撫でながらドックフードに缶詰を混ぜて食べさせてやる。


それが帰ってきてからの日課。




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