ティーン・ザ・ロック
「……逢坂さん」
聞き慣れない声で名を呼ばれ、バッと振り向く。
そこには、存在感を一切出していない彼がいた。きっと声をかけられなければ、そこに居る事にもきっと気付かなかっただろう。
「な…何…?杉澤君」
「……時間」
長い前髪とメガネから僅かに覗く目が、教卓の上にある時計に向けられている。
一旦振り返って時計の針を見ると、もう聞いていた時間の5分前に迫っていた。
「あ、じゃあ…行こうか」
紅葉達に一旦の別れを告げ、先に歩き始めていた杉澤君の後を追う。
その早さは、あたしの足だと小走りでなければ追いつけない程だった。
まさか、一人で行くつもりじゃないだろうな…。
「す…杉澤君…!!」
呼び止めると、ピタリとその場で足を止め 上半身を捻る形であたしの到着を待ってくれている。
「……何」
相変わらずの無表情。
だが、怯むわけにはいかない。
「あの…視聴覚室が何処だかわかんなくて。一緒に行ってくれると…その、ありがたいんだけど」
「………」
2秒程見つめ合ったが、彼は何も言わずに足を前に進め始める。
「…ちょ…」
あたし、無視されたの?