ティーン・ザ・ロック
その場に取り残され、呆然としてたあたしだったが
先程の考えは間違いだったと気付かされる。
杉澤君は3メートル程進んで、その歩みを止め
ゆっくりと振り返ったのだ。
「……行かないの?」
「…え…あ、…行く」
引き寄せられるように歩き始めたのを確認して、彼はまたあたしの前を歩き始める。
しかも、その歩調は先ほどよりもゆっくりとしていて。
何も言わなかったけど、別に無視した訳ではなかった。
無口だけど、彼は意外にも優しいのだ と気付いた。
視聴覚室に着いた時にはもう、話し合いは始められていた。
「遅れてすみません」
小さな声で謝罪をし、そそくさと開いている席に着く。
それを確認した教師が、良く通る声で話を進め始めた。
「毎年行われている、一年生の親睦を深める為のレクリエーションは、今年も一泊二日で山のコテージに宿泊する事に決定しています。
持ち物や注意事項などについては、手元にある資料を見てくれれば分かると思いますが。
キミ達にはクラス内の規律を乱さないように、リーダーとしてみんなをまとめる役をして貰います。
このレクリエーションには幾つかの目的があって……」
話を聞いていて、眠くなる程に優しい声の持ち主だと思った。
現にあたしの瞼は重力に逆らえない雨粒の様に、ぱちぱちと、何度も何度も下に落ちていた。
……でも、山で親睦を深める なんて。
まだ5月になったばかりだと言うのに、キャンプにでも行くみたいだ。