ティーン・ザ・ロック




その場に取り残され、呆然としてたあたしだったが


先程の考えは間違いだったと気付かされる。




杉澤君は3メートル程進んで、その歩みを止め


ゆっくりと振り返ったのだ。



「……行かないの?」



「…え…あ、…行く」



引き寄せられるように歩き始めたのを確認して、彼はまたあたしの前を歩き始める。


しかも、その歩調は先ほどよりもゆっくりとしていて。



何も言わなかったけど、別に無視した訳ではなかった。



無口だけど、彼は意外にも優しいのだ と気付いた。





視聴覚室に着いた時にはもう、話し合いは始められていた。



「遅れてすみません」



小さな声で謝罪をし、そそくさと開いている席に着く。


それを確認した教師が、良く通る声で話を進め始めた。



「毎年行われている、一年生の親睦を深める為のレクリエーションは、今年も一泊二日で山のコテージに宿泊する事に決定しています。

持ち物や注意事項などについては、手元にある資料を見てくれれば分かると思いますが。

キミ達にはクラス内の規律を乱さないように、リーダーとしてみんなをまとめる役をして貰います。

このレクリエーションには幾つかの目的があって……」


話を聞いていて、眠くなる程に優しい声の持ち主だと思った。


現にあたしの瞼は重力に逆らえない雨粒の様に、ぱちぱちと、何度も何度も下に落ちていた。



……でも、山で親睦を深める なんて。


まだ5月になったばかりだと言うのに、キャンプにでも行くみたいだ。



< 109 / 337 >

この作品をシェア

pagetop