ティーン・ザ・ロック
薄暗い校舎の中をひたすら歩く。
遅くまで部活をやっている生徒の為に、昇降口だけはセキュリティーを切ってあるらしい。流石私立だ、と思う。
外に出て大通りに向かった。
途中、通りかかったタクシーを拾って杉澤君を押し込め、あたしも隣に乗り込む。
「図書館の近くにあるコンビニまでお願いします」
「コンビニねー」
彼が口を開く前に行き先を告げる。ゆっくりと動き出したのを確認して、今まで掴んでいた腕を離した。
「………何処に行く気?」
「あたしの家。…叔父さんと叔母さんの家だけど」
「……何で…」
「………怪我の治療」
「……そうじゃなくて…」
彼が口をつぐんで、そこで先程の質問の意図を読み取った。
でも、それは今は言えない。…言わない。
「杉澤君が話してくれる気になった時に、あたしも話す。
あたしの事だけ教えるなんてフェアじゃない。
…別に強要してるわけじゃないよ。ただ…
杉澤君が話しても良いって思った時は、あたしの事を信用してくれる時だと思う。
その前にあたしの事だけ話すのは、あたしにとってデメリットでしかない。
信頼してくれてない人に話せる事じゃない位、重い内容だしさ。
秘密を共有するのって、信頼してないと無理だと思うから」
「………そっか…。分かった…」
彼のそっけない返事を聞いて、本当にこれで良かったのかと考えた。
先に情報を渡して信用させた方が良かったのでは とも思ったけど…
でも、やっぱり彼とは正面から向き合いたい。
“信用させる”とか“言わせる為に話す”とか。
そんな姑息な事をしてしまったらきっと、一生心から信用されなくなる。
今日触れ合った僅かな時間で、彼はそんな繊細な人だと悟ったんだ。