ティーン・ザ・ロック
「なんだ、危うく要に電話する所だったよ」
雪さん。止めれて本当に良かったです。
「なんだぁー…『娘はやらん!』って一回言ってみたかったのに…。
ま、取り合えず上がって!」
「優さん…それは…」
“女の台詞じゃないんじゃ…”と言いかけて、止めた。
そんな事より優先させなければならない事がある。
「優さん…いや、雪さんの方が良いかな…。
お願いがあるんです。
彼、怪我してて…。
何も聞かずに、言わずに…治療してもらえませんか…?」
「怪我…?」
二人の目が、杉澤君の身体を捉える。
彼は床を見ていた。…きっと、こんな事になったのは不本意だろう。
でも…そんなプライドに拘(こだわ)っている場合じゃない。
「…じゃ、俺の部屋に行こうか。母さん、救急箱持ってきてくれる?」
「ええ、すぐ行くわ。
さ、遠慮しないで上がって」
「二人とも…ありがとう…」
本当に良い人たちだ…。お礼を言うあたしの横で、彼も頭を下げ、再び『お邪魔します』と言って足を踏み入れた。
自分の部屋の前で一旦足を止め、『終わったらリビングに行くから』と笑顔であたしの顔を見てくる雪さん。
心配しなくても大丈夫だよ と声が言っていた。
「あたしも着替えてからリビングに行きます。
…杉澤君、後でね」
「……うん」
こくり と彼が頷くのを確認して、自分の部屋に向かった。