ティーン・ザ・ロック
数分経って、杉澤君が雪さんと一緒にリビングに下りて来た。
彼は相変わらず無言で無表情だったけど、キッチンに所狭しと並べられた、優さんのル・クルーゼのコレクションには、目を見開いてぱちぱちさせていた。
あたしはもう慣れたけど、初めて見た時は目がチカチカしてしょうがなかったっけ。
思い出したのと彼の表情に頬を緩めていると、優さんが杉澤君の顔を覗き込んで笑いかけていた。
「ねぇ、キミ。ご飯、食べて行かない?
うちの旦那さん、今日は飲んで来るってさっき電話が来たから、どうしても一人分余っちゃうんだよねー。
一人分余っててもしょうがないし…捨てるのも勿体ないし。
ね、良かったら食べるの手伝ってよ」
「…え…」
「そうそう。遠慮なんかする事無いからね。今日はハンバーグだよー?
男なら誰でも好きだろ?」
「…でも」
雪さんは戸惑った表情をする彼の背中を強引に押して、あたしの向かい側、いつも叔父さんが座る席に座らせた。
「帰りも俺が家まで送るから、心配しなくて良いよ。
…早く食わないと俺が食っちまうぞーッ」
「雪はさっきの食べかけが残ってるでしょーが!」
わあわあと、コントを始める二人。
杉澤君が顔をひきつらせているのを見て、慌てて向かい側に座った。
「……気にしないで。食べよー」
「………じゃあ、頂きます」
彼にならって、丁寧に手を合わせて挨拶をし、箸を持つ。
デミグラスソースのたっぷりかかったハンバーグを口に運んでから、彼をこっそり盗み見た。
彼は目の前のハンバーグの大きさに目を見開いている。
…それもそうか、叔父さん用に作ってあったものだもんね。
でも、一旦箸を付けると、もう躊躇わずに大きなハンバーグを平らげる。
その細い体に良く入ったよなー、なんて感心する程の食べっぷりだった。