ティーン・ザ・ロック


「頬や頭をぶたれるのはまだマシだった。



……母は僕の顔が嫌いなんだ。


自分を犯したあの男に良く似ているから。


それで、酔っ払った拍子に、脅えた顔で僕の腹に刃物を突き立てた。


寒い冬の日だった。



……沢山血が出た。


でも病院には連れて行ってくれなかった。自分が捕まると思ったんだろうね。


そこにおばあさんが帰って来て、救急車を呼んでくれたんだ。



何があったんですか って聞かれて、おばあさんは


“テーブルで果物を切ろうとした所に、ふざけていた子どもが倒れこんで来た”


って言ってたよ。救急隊も、納得して僕を運んで行った。



電話をしている間に、母に用意させたリンゴのおかげでね。



……傷はすぐにふさがったけど


母の前で着替えをしたのがいけなかった。



“あたしに傷を見せて、どうしろって言うの。本当は責めてるんでしょう。

『気にしてないよ』なんて、口先ばかりだったのね”



……何でそう捉えたのか分からないけれど…。


被害妄想が激しい人なんだ。



“あの男と同じ顔で、自分を見るな”


そう言って、傷跡にポットのお湯をかけたんだ。



……医者に、一生消えない傷だって言われた。



そんなものよりも、目に見えない傷の方が深いのにね………」




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