ティーン・ザ・ロック



あたしは彼と出会ってから、たった一度だけしか笑った顔を見た事がない。


それは紅葉が彼にした事以外に、家族の事があるからだろう。



でも、前の彼は明るくてよく笑ってたって、冬華が言ってた筈。


学校では笑っていた彼が変わってしまったのは……。




「彼が笑わない様になったのは、紅葉が彼を陥れたからだよ」



「……何の事」



「……林田の財布、取って杉澤君のバックに入れたの

紅葉だよね」



ピクリと肩が揺れた。今の推測が当たっていると証明するには、それでもう十分だった。



「林田と付き合ってた紅葉なら、バックの特徴も机の位置も分かるよね…?


振られた腹いせにやったんでしょ…?」


そう尋ねてから、たっぷり時間をおいてだが、紅葉が口を開く。


「…バックの位置なんて、知らなかった。私が林田の教室に行く事だって無かったもの。


…ねぇ、どうして中学から一緒にいる冬華たちが、私と林田の関係に気付かなかったか、わかる?


林田は、学校では私の事を無視してたからよ…!!付き合ってる事も公にしてなかったし、会う時はいつもラブホで…。


会えば優しくしてくれたけど…身体だけだった。それがとても辛かった。



告白して来たのは向こうなのに何でって、何度も思った。



そんな辛い時に、杉澤に笑いかけられたのよ。


あの頃の彼は、本当に明るくて、みんなの人気者で…。笑ってどうしたの?って聞かれただけで、私…恋に落ちた。


自分が辛い時期だったから、優しくされた人なら誰でも好きになったかもしれない。


けど…やっぱり彼の雰囲気に惹かれたのが大きかった。



それで、告白したの。林田と別れるのは、彼とうまく行ってからでも良いと思ってた。


でも彼は、私を振ったの。私は諦めなかった。ブラウスを脱いで迫れば、どんな男だって抱きたいと思うでしょう…?だけど彼は『こんなことされても困る』って…。


……凄くショックで、服はそのままに、その場から逃げ出したわ」





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