ティーン・ザ・ロック
「何でもないよー。どれにしようか迷ってただけ」
言いながら、ココアの缶を選ぶ。
ガタリと鈍い音で落下する容器を取り出しながら
「そうか?」
と、納得のいかない顔で頭を掻く兄に微笑んだ。
「あっちのベンチに居るね」
逃げる様にベンチへ向かうあたしを、訝しげに見る兄だったが
それ以上は聞くつもりは無かったらしく、自分の分の飲み物を選び始めてくれた。
ワックスが塗られ、蛍光灯の光で輝く木のベンチに、深く腰掛けながらプルタブを押し込んだ。
ココアの香りが、ふわりと鼻を擽る。
いい香り。
口に運びながら、お焼香の時に聞いた噂話を思い出した。
これから、本当にどうなってしまうんだろう。
唯一の拠り所だった家族は、もう兄しか残っていない。
あの人たちの言うとおり、叔父さんの所に預けられるのかなぁ…
そうなったらそうなったで良いかな…。
「葉瑠ちゃん。要君も」
急に声をかけられて驚いたが、結構近い位置に叔父さんと叔母さんが居て
自販機の前にいる兄にも声をかけ、こちらに手招きをしている。
「式も立派に終えて、少し安心したね」
「あ、はい…。二人には、本当に助けて頂きました…」
「何だい、今更他人行儀になって。
それに、良いんだよ。僕たちがしたくてしてる事なんだから」
ニコリと微笑む叔父さん。少し疲れは目立つが、至って元気そうで安心した。
ここ2日はろくに寝ていないだろう。
兄と、叔母さんである優さんも同じようなものだ。
あたしだけがたっぷりと睡眠を取っていて、言葉で感謝してもしつくせない程
皆には助けてもらったのだ。