ティーン・ザ・ロック
分からないの、とでも言いたげな視線をあたしに向け、これ見よがしにため息なんか吐いて。
「…要さんは何のために働いてるんだっけ?あんたの為でしょ?
あんたが帰ってくる家を守るために働いてんでしょ?
それなのに子どもなんか出来たって知ったら、あんただって帰ってこれなくなるかもしれない。
それに…。あんたの為に、下ろせって言われるかもしれない。
そんなのあたしにとってもあんたにとっても、言わない方が確実に幸せで居られるに決まってんでしょ…」
そっぽを向いて話す留美が、初めて可愛いと思った。そんな事で悩むなんて、やっぱり留美は馬鹿だなぁ…。
「…何笑ってんのよ」
「あ、ゴメン。でも…ふふッ」
「…気持ち悪い顔」
フンっ と鼻で笑って、顔を背けられてしまった。
「留美ィ」
「…何よ」
「……お兄ちゃんの事、本気で好きだったんじゃん」
「……は?」
…二か月前に会った時、あたしを苦しめる為に兄と付き合った って言ってた。
けど…ずっとそれが腑に落ちなかったんだ。
兄だって、鈍感だけど馬鹿じゃない。
少しでも偽りの気持ちがあるなら、兄だってあそこまでべた惚れする筈が無いんだ。
今だって彼女は子どもの事も、あたしの事も考えてくれている。
だったらあたしは、彼女を安心させてあげるべきだ。
「ねぇ、お兄ちゃんに言おう」
「ハァ?…さっきの話、聞いてたの?」
聞いてたよ。でも、大丈夫。留美の悪い様にはしないから。大丈夫だよ…。