ティーン・ザ・ロック




人もまばらな駅を抜けると、微かな潮の香りと草木の青々とした香りがした。


何だか懐かしくて仕方が無い香りだった。


人の数も、建物の雰囲気も、この香りも。


あたしの地元とよく似ていて何だかホッとする。




駅から出て初めて目に付いたお店は、こじんまりとした、でも趣のある小さな和菓子屋さんで。


「……あのお店で、道聞こうか」


「…うん」


和菓子屋さんなんて入った事無いくせに


堂々と店内に入って行けるのはきっと東京のお店じゃないからだと思う。


あの街では、どんな場所でも息が詰まる。



そんな事を思いながら開けっ放しの扉をくぐると、50代くらいのおばさんが笑顔で出迎えてくれた。



「いらっしゃい」


「あの…道を聞きたいんですけど…」


「ん?どごに行ぐの?」



独特のイントネーションが、何だかあたしの顔をほころばせる。


「えっと…山の上にある大きな木を見に行きたいんです。新幹線の中から見えて…」


「ああ、御神木の事かなぁ」


「ゴシンボク…?」


聞き慣れない言葉に思わずオウム返しをすると、隣に立っていた彼が説明をしてくれた。



「…地域で祀ってある古い木…だと思うよ。

しめ縄で括ってあって…」


「へぇ…!」



御神木。神秘的な響きだ。


そんな事を知っている彼への感心も含んだため息を吐く。

おばさんは満足そうに頷いて、更に補足をしてくれた。


「この辺りには神社なんて物は無くてね。新幹線が止まる駅はあっても、この町の人しか降りで来ないのよ。

過疎化も進んで来たはんで経営者がいねぇもんで、小さな社(やしろ)だげであの木を祀ってるらしいのっさ」


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