ティーン・ザ・ロック
「…そこには行けないんですか?」
「いんやぁ、バスに乗れば、木のある山の下までは行げっけど…。
後は山道を登って行ぐしかねぇがもなぁ。タクシーならもう少し上まで行げるがもしんねぇよ。
…若いのにそんな場所に興味があるなんて珍しいねぇ」
「いえ…」
「……何があったらまたこごにくれば良いよ。おばさんと、奥に居る旦那さんしかいねぇけど、困ったらいつでもこらんせ」
……“何で来たの?”とか“何しに行くの?”とか聞かれなくて良かった。
そんな事聞かれたってきっと答えられないもの。
「ありがとうございます…」
お辞儀をしてお店から立ち去ろうとした所を呼び止められる。
「ちょっと待ってで」
そう言いながらカウンターの和菓子を二つ、小さな箱に入れてあたし達に差し出してくれた。
「持って行ぎな」
「え、でも…」
「いいがらいいがら!こっただものしか無くてわりぃんだけんとも、食べだらんまいがらさ」
…本当に良いのかな。
そう思いながらも、手はしっかりと箱を支えていて。自分の貪欲さがちょっとだけ恥ずかしく思えた。
それに、白い箱の蓋はまだ閉じられていなくて、その中から覗く可愛らしい花が甘く香る。
小さいのに繊細な作りだ。
「うちはね、お寺のお菓子も作ってるのよ。神社は無いけど寺だけは立派なのがあってね。だから味と見た目は保証するよ。
これはね、蓮の花。蓮華(れんげ)とも言うね」
「…綺麗…」
淡いピンク色に、葉を表す緑色がよく映えている。