ティーン・ザ・ロック




膝の上で作った握りこぶし。その上にパタパタと滴が落ちる。


…それでもこうして彼の前で泣いてしまうという事は



弱みを見せても良いと思っているからなのかもしれない。


裏切られても



まだあたしの心は彼を想っている。



「……君は、まだ大丈夫」


まるで幼い子供に言い聞かせるかのような、穏やかで優しく、感情の籠った声だった。



「お兄さん、凄く心配してた。……あの電話の後、実家に戻って地元を探し回ってたらしいよ…。

一晩中、寝ないで…電話だって、繋がらないのが分かってて何度も何度も…。



……君は、愛されてる。凄く、凄く…。


疎ましいと思うかもしれない。余計な御世話だって思われてるのも分かってる。


だけど……笑って欲しいから…」




だから





「帰ろう…?」




あたしの頬に彼の指が触れる。



穴の開いた水風船の様に、止め処なく流れ続ける涙を掬って、救ってくれる。



「……愛してるから。だから、時には裏切るんだ」



「………ふ…ぇ…っ」


「…僕はずっと君の事だけを想ってる」



……分かっていた。



逃げても逃げても、罪悪感と過去の思い出からは逃げられないって事。



一時、気持ちが楽になったとしても


あたし達の未来に希望も幸せも保障されない。


分かっていた。それでも逃げ出したかったんだ。



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