ティーン・ザ・ロック
「…でもね、逃げて良かったと思ってる。
考えなくなる事は無かったけど、幾らか楽になったから。
自然がね、本当に包み込んでくれたの。
“良いんだよ、皆、分かってるから”
って…。そう言ってくれてる気さえする位に。
それに……。
心のどこかで、家に帰りたいと願っている自分が居るのも知っていたから。
…悠馬が兄に連絡してくれて、本当に良かった……。
きっと、きっかけが無ければ まだこの場所に居られなかった」
悠馬は初めて心を許した相手。
彼もまた、あたしを信頼してくれていると分かっている。
だからこそ、彼を信じ、家族を信じる決意が芽生えた。
彼が居なかったら、本当に私は何も変われなかった。
「皆、ありがとう」
“ごめんね”よりも、それを伝えたくて。
皆がこれだけあたしを見てくれている事にも気付かなかった馬鹿な女だけど
今なら言える。
産まれて来て、本当に良かった。
「…葉瑠ちゃん。本当のお母さんの話、聞きたいかい…?」
まだ目は赤かったけど、落ち着いた様子の叔父さんが、嗚咽を漏らしながら尋ねてくる。
話す気になってくれて嬉しい。だけど
「……いいの。私のお母さんは、育ててくれたお母さんだけで十分だよ」
忘れるわけじゃない。嫌いなわけじゃない。
あたしが産まれて来た事実は、誰にも消せない。
だけどね、今を大切にしたいから。