ティーン・ザ・ロック
月光
あたしには、大好きな兄がいる。
あんまり真面目じゃないけれど、頭が良くて
喧嘩は強いけど、仲間を守る為だけにしか殴り合いはしなくて
怒ると怖いけど、直ぐに笑顔になるし
何よりも家族を大切に思っている、とても優しい兄が。
そんな兄、逢坂 要(オウサカ カナメ)が働きだしたのは、
去年の、街路樹の葉が黄色く色づき始めた頃だった。
中三で、受験真っ只中だったあたしが家に帰ると
いつもは遊びに行っていない筈の兄が、ソファーに座って項垂れていた。
日ももう落ちたというのに電気も付けず、ただいまと声をかけても振り向きもせず。
ただならぬ様子の兄だけでなく、家中から漂ういつもと違う雰囲気を感じて、
楽観的な筈のあたしでさえ、とてつもない胸騒ぎを覚えた。
「おにいちゃん、ねぇ。
お母さんたちは?」
いつも忙しそうにしている父が、取れなかったお盆休みの代わりに と、母と二人で二泊三日の小旅行に出かけた。
嬉しそうに旅行鞄に荷物を詰める母を見て、いい年してはしゃいでるよ、と思ったのはもう三日前の事。
本当ならばもう家に居て良い筈の時間なのに。