ティーン・ザ・ロック




思わずふるいにかけている手が止まってしまい、『早くしないと風馬が帰って来るわよ』と言われてしまった。



何と言ったらいいか分からなくて


カシャカシャと作業をする音だけが響いていた。



「……あの子、あの人の事を誤解しているの」



ため息交じりの声。



その目は手元ではなく、リビングの方に向けられていた。多分、本当は間に入って仲を取り持ちたかったのだろう。


「…誤解、してるんですね。なんとなく…彼から理事長の話を聞いたイメージと、実際に会った印象が違うから……。そうじゃないかとは思ってました」



「……あの人、本当に悠馬の事を想っているのよ」




混ぜ終わった卵と砂糖とバターの中に、あたしのふるった粉を入れて更に混ぜる。



出来あがった生地を二つに分け、片方にココアの粉を入れ、更に混ぜて生地が完成した。



「絞り出しだから、あなたはそっちの鉄板に生地を絞ってね」


「あ、はい」



……何だか今日会ったばかりの展開とは思えないけど。


つっこんだら負けな気がして、何も言わずに指示通りに動く。



一心不乱に絞り出し、それぞれ別のオーブンで焼き始めた。流石お金持ち。



「……ちょっと時間がかかるわ。ちょっとお話でもしましょうか」



コーヒーで良いかしら?



って…。無表情で言われると断りにくいと思います……。好きだから良いけど。



「頂きます…」





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