ティーン・ザ・ロック
この家の台所は、バーのカウンターの様な造りになっていて
人が作っている姿を凄く近くで見る事が出来る。
お菓子作りでは危なっかしい手つきだった悠馬の母親も、コーヒーを入れる手つきはもう慣れたもので。
コーヒーメーカーで作るよりも段違いに香ばしい香りが漂ってくる。
「お砂糖とミルクは?」
「あ、自分でやります」
「クッキーが焼けたら、皆でお茶しましょうね」
カウンター側に移動した彼女は、二つ分席を開けて腰をかけた。
……微妙な距離だ。
暫くの間、食器の擦れ合う音とヴーンと動くオーブンの音だけが聞こえていて
溜まらずコーヒーを胃に流し込んだ。
「あの人はね」
「ゴフッ…え?」
またしても唐突な話の始まりに、口から盛大にコーヒーを噴き出す。
悠馬の母親はゴミでも見る様な目つきでおしぼりを手渡してくれる。
「……あの人は、病気なの。肝臓を患っていて、入院寸前だわ。
悠馬が見たのは、かかりつけの医者よ。
結婚しないのも、病気のせい。
あの人は私を縛りたくないと言っていた」
そう言って頭を抱え込む様にしてテーブルに肘をついていた。
何だかモヤモヤするのは、鼻に入ったコーヒーのせいだろうか……?