ティーン・ザ・ロック
大きなため息をつきながら悠馬を睨みつけていると、悠子さんが呆れた声を出した。
「何よ、知らないと思ったから、クッキー作りを手伝って貰ったんじゃない」
「え…?じゃあ、元々悠馬の為にあたしを手伝いに…?」
「当たり前じゃない。誕生日があるって知ってたら家出なんかしなかったでしょう?
それか、そのまま今日は帰ってこないか、そのどっちかよ。
でも、GPSで悠馬がこっちに向かっているって事がわかったから、今朝の内に買い物を済ませて……」
「母さん…?」
悠馬が恐る恐る尋ねる。悠子さんは『何?祝うのがそんなに珍しいの?』と、拗ね始める。でも、聞きたいのは、そこじゃない…よね?
「あの…GPSって…?」
「GPSも知らないの?ケータイの位置を知る為の…」
「いや、そうじゃなくて…。
僕の行動範囲を、見ててくれたんだ…?」
「………!ち…違うわよ!!たまたま…そう、たまたまよ!!
いじっていたら、たまたまその画面になって、その…」
見る見るうちに顔を赤く染めていく悠子さん。……全く、素直じゃない所は以前の彼に良く似てるよね。
「……電話も無かったから、心配なんかされてないと思ってた」
「………そんな筈、ないじゃない」
「…ごめんね。ありがとう…」
そう言って、彼は悠子さんを恐る恐る抱きしめた。
最初はこぼれ落ちるんじゃないかって位に眼を見開いていた彼女も
彼の温かさに頬を緩め、目を閉じて、背中に手を回していた。
「…知らない間に、子どもって…成長するのね」
「……うん」