ティーン・ザ・ロック
「ねぇってば…」
急かすようにそう尋ねても、兄は無言で。
太陽の代わりに姿を現した月の光が、震える兄の背中を照らし出すまで
あたしは黙ってリビングの入口に立ちつくすより他なかった。
静寂を破ったのは、一本の電話。
母が好きなカノンという曲が、電話機から流れ始めて
それでようやく兄が席を立った。
こちらに向かって歩いてくるその足取りは、決して軽いものではなく
一瞬躊躇ってから受話器を持ち上げる兄を、何故だか見て居られなかった。
「…はい、逢坂です。
…はい、はい。
………………そうですか。
分かりました。ええ、搬送して頂けるとありがたいです。
…はい。宜しくお願いします」
電話機に向かって深くお辞儀をしてから、静かに受話器を置く。
「葉瑠(ハル)…。落ち着いて聞けよ…」
そう言ってあたしを見つめる兄の頬に
月光に照らされる、一筋の涙を見た――――――――。
「オヤジ達な、
死んじまったんだって――――――」
あたしの見てきた幸せな世界が、暗転した瞬間だった。