ティーン・ザ・ロック
「じゃあ、時間だから…」
騒がしい駅のホームで、いつもより少しだけ声を大きくして話す。
最初は見送り用の切符を買おうとしていた兄だったが、あたしの断固拒否に渋々折れてくれた。
「なー…。ホントに良いのか?乗り場まで荷物運んでやるぞー?」
「もーっ!良いってば!!わざわざキャリーバック一個の為に着いてこなくても良いよっ」
粗方の荷物は先に送っていたから、手もとの荷物は、早急に必要なものをまとめた小さめのキャリーバックと小物を入れたバックだけなのに。何か理由を付けてでも見送りたいのだろうか。
「それに、会おうと思えばすぐに会えるって言ったの誰よ?だから、ここで良いの」
強がってそう言ってみたものの、やっぱり家族との別れは寂しい。
でも今は、留美が居るから。
何故だか彼女に、最後まで見送られたくなかったんだ…。
「えー…でもよォ。可愛い妹の旅立ちだぞー?心配なんだよ」
未だに渋る兄だったが。
「葉瑠が着いてこなくて良いって言ってるんですもん!心配しなくても、葉瑠なら大丈夫ですからッ」
留美の一言で『そう?』と考えを覆してしまった。
…っていうか…なんでそんな事、留美が言うの?
大丈夫って、アンタ、あたしじゃなくて兄しか観てないのによく分かるね?
吐き出したい想いをぐっと飲み込んで、辛うじて笑顔で改札口に向かう事が出来た。
曲がり角の直前、一度だけ振り返ってみる。
二人はまだ改札口の前に立っていたが、しなだれる様に兄にくっつく留美を見て、下唇を強く噛み締めた。
やっぱり、兄と一緒に居たいがための見送りだったんだ…。
踵を返し、新幹線の乗り場に上がる。
備え付けられた銀色のゴミ箱の前に立って
肩に引っかけたバックから、貰った小さな箱を取り出し
捨てた。