ティーン・ザ・ロック
駅前のパチンコ店の前で凄い恰好をして宣伝するのを眺めていると
「葉瑠ちゃ~ん」
いつの間にか雪さんがロータリーに着いていたようだ。
「あ、すみません」
雪さんの車は白のエルグランド。雪さんがワゴンに乗ってるのは少しイメージと違う気がした。
後部座席の方に荷物を乗せてもらって、あたしは助手席に乗り込む。
お父さんが運転していた車はセダンだったから、ワゴンがこんなに高い目線になるなんて知らなかった。
「シートベルトした?じゃあ行くよ」
雪さんが手慣れた様子でレバーをDに入れると、車はゆっくりと動き出す。
揺れの少ない車内は、とても居心地が良くて
こっそりと皮張りのシートを撫でたりした。
やっぱり社長の家は何かが違う。
信号待ちの時、雪さんが悪戯っぽく笑って教えてくれた。
「実はこれ、父の車なんだ。僕のは今日、父が乗ってる。
女の子を迎えに来るんだから、ちょっと位見栄を張りたいってお願いしたんだよ」
「あ、そうなんですかー?…別にあたしなんかの為に見栄を張らなくても」
「いやいや。父から葉瑠ちゃんが益々美人さんになったって聞いた時から、こうしようと思ってたんだ~。おかしいだろ」
「叔父さん…。老眼になっちゃったんじゃ…」
わざとらしくため息を吐いて見せると、雪さんは声を上げて笑っていた。
「確かに老眼が始まってるかもしれないけど。
メガネで矯正して視界ばっちりの僕が保証するよー。
葉瑠ちゃんは美人さんだ」
爽やかな笑顔でそんな事を言われてしまっては、顔が赤くなるのも仕方ない。
信号が青に変わったおかげでそれはバレずに済んだけど…。
雪さんって、こんな事をさらっと言ってしまう人だったっけ。
素で言っているのか、からかっているのか、普段から誰にでも言っているのか。
都心でやたらと目につく豪邸に向かう車内で
そのどれであっても、なかなか厄介だと思ったのだった。