ティーン・ザ・ロック
鼻歌を歌いながら玄関を出る優さんに続いて、駐車場のコンパクトカーに乗り込む。
…ここに住み始めて一週間のうちに、随分とあり得ない光景を目にしてきた。
地下にある駐車場には車が4台あって、1台は殆ど観賞用になっているという黒のハマー。小さなトラック並みに大きな車体は傷一つなく、艶やかにてらてらと輝いていた。
後は、大理石でできた玄関と檜のお風呂。小さいけれど露天風呂まであった。
メインクローゼットは、ダブルベッドが二つ置けるくらいの広さはあったし
あたしの部屋だと言って案内された場所は18畳の広さだという。
たまに自分が王室に嫁いだのかと錯覚しそうな位
そこは今まで見たどの家よりも広くて ゴージャスだった。
「葉瑠ちゃん、道、覚えた?」
サイドミラーに映る豪邸を見つめていると、優さんがちらっとこちらを向きながら尋ねてくる。
「あー…。多分。そこの角を左に曲がって、公園を右折して…大学の裏側にあるんですよね?」
何度か近くを探索しに一人で歩いて、迷いながら覚えた道だ。家からも見えるし、通うには最高の立地条件だと思った。
「当たり!流石葉瑠ちゃん。雪とは大違いだわっ」
「雪さん…ですか?」
「そうなのよー。雪ったら、何十回も通った道じゃないとまともに歩けないらしいの。
頭は良いんだけど、方向音痴だしー彼女も何年も居ないしー。
親としては心配なわけなのですよ」
がっくりと肩を落とす優さんを見て、思わず声を出して笑ってしまった。
「もしも雪が30になっても彼女の一人や二人できない様だったら…。
葉瑠ちゃん、お願いねっ」
「ええーーーっ!?あたしが、雪さんと!?」
「やっぱり雪は気に入らない…?」
うるる と目を湿らせて尋ねてくる優さん。
あたしは、いきなりの事で気が動転してしまっている。