ティーン・ザ・ロック
彼、一人
初めて彼の存在に気付いたのは、本格的な登校が始まって 一日目の事だった。
初日の一時間目は丸々授業が潰れ、自己紹介タイムと化す。
担任が先だって自らを生徒に売り込むと、今度はその流れで生徒の自己紹介へと移った。
勿論名簿順だ。
隣の彼が一番で『相野口 巧実(アイノグチ タクミ)』と名乗り、野球部に入りたいとの宣言で席に座る。すると男子からは野次が飛び、周りからはパラパラと盛大な拍手が起きる。
大抵がこの繰り返しで、一列目の男子の紹介が終わる。
このまま次の列の男子に移るのかと思いきや、担任がまさかの裏切り。
「次、隣の列の女子ー」
出席順という話では無かったのかと、心で悪態を吐き、覚悟を決めて立ち上がった。
「逢坂 葉瑠です。えと…宜しくお願いします」
名前の他には何も思いつかず、顔を赤くしながらペタンと椅子に座った。
すると、まさかの男子からの声。
「かわいー!!」
「おい巧実ぃ!席代われや!!」
ドッと湧き上がる笑い。からかわれているのかもしれないけど、不思議と嫌ではなかった自分に驚く。
顔に手を添えて、熱くなった頬を隠していると
ざわざわと盛り上がる教室に、紅葉の声が響いた。
「ちょっとー!!葉瑠は恥ずかしがり屋なんだからー!
誉めるなら私を誉めてッ」
冗談交じりで立ち上がる紅葉に、周囲が益々笑いに包まれた。