ティーン・ザ・ロック
その晩、兄が作ってくれたのは、物凄く苦いオムライスだった。
上に乗せてある卵は、固くて、焦げて、パサパサしているし
その下にあるチキンライスの様なケチャップご飯は、
物凄く酸っぱい香りをさせ、水分を含んでべちゃっとしてた。
「…不味いな」
「…不味いね」
でも、二人とも残さず食べた。
兄は無理するなと言ってくれたけど
今まで、台所に立つのはお湯を沸かす時しか無かった筈の兄が、
不器用ながら、一生懸命に作ってくれたオムライスを残すなんて出来る筈が無い。
「今度から、あたしが料理作るよ。
お兄ちゃんのレパートリー、正直言ってカップラーメン位しか無いでしょ」
洗い物をしながら、アルバムを眺める兄に向かって申告してみた。
「…オムライス作ってやっただろーが」
「…ああ、卵乗せべチャべチャライス(ほろ苦風味)の事ね。もう、勘弁」
「テメー」
「…お兄ちゃんが、調理実習とか裁縫系とか、好きじゃないことぐらい知ってるよ。
お母さんが通知表見ながら、家庭科だけアヒルマーク付いてるって笑ってたから」
普通なら落ち込むか、怒るかする筈なのに
お母さんもお父さんも、二人で大笑いしていた事を思い出した。
「しゃーねぇだろー。
エプロン持ってこいって言われて、母さんに頼んだら
自分のフリフリエプロン手渡して来たんだもんよ。
…そんなん着たくなくて、持ってっても授業出なかったからさ」
「でも、一応受け取ったんだ」
「偉いっしょ?」
兄が、どれだけ両親を大事にしていたか
それが分かっていたから、二人も多少の事では怒らなかったのだろう。