ハルジオン。
序章
朝から降り続いた雨も夕方には上がり、灯りの落ちた家々を夜の帳が包み込んでいた。

「変わんねえな」

神社へと抜ける近道を歩きながら、達也は小さく呟いた。

雨露に濡れたあぜ道で立ち止まり、辺りを見回す。

どこを向いても山また山。よくもこんな田舎町で暮らしていたものだと、今更ながらに感心する。

「まったくよ」
達也は舌打ちとともに再び歩き出した。

足下の蛙が達也を避けるように田んぼに飛び込んでいく。歩くたびに濡れていく靴のことなど気にする様子もなく、達也はあぜの草を軽く蹴りながらジーンズのポケットに手を突っ込んだ。

ため息混じりに顔を上げる。

あれほど重くたれ込めていた雲も今はすっかり流れ去り、透き通った紺色の空には大粒の星達が煌めいていた。

昔と変わらぬ景色、
草の薫り、

そのすべてがもどかしい。
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