ハルジオン。
「何がタイムカプセルだよ」

折り重なる山の稜線を見上げながら、達也はもう一度呟いた。まるで雨が上がるのを待っていたかのように、どこからともなく虫の音が聞こえてくる。

時計を見ると、約束の時間まであと五分ほどになっていた。

「本当にあいつら来てんのか?」

呟いて思わず苦笑いした。

何だかんだ言って約束どおり来てしまった自分が可笑しかった。

ここに来れば、嫌でも昔を思い出す。
それなのに……

あぜ道を抜け、桜の木が立ち並ぶ逆瀬川の土手を川上に向かって歩いていると、不意に目の前を一筋の淡いゆらぎが横切った。

「……蛍」

達也は思わず立ち止まった。

< 11 / 339 >

この作品をシェア

pagetop